屋内の空気汚染、土壌の劣化と汚染、電化の遅れ――これらはインドの地方農村部が直面する主要な問題とされています。
スコットランドのグラスゴー大学をはじめとするいくつかの国際的な研究機関は共同で、廃棄物をエネルギーに変換する熱分解システムを利用してこれらの問題を解決しようとしています。
貧困率が高いとされるインド東部オリッサ州のおよそ1,200世帯を対象に、調理・電力供給・農業事情に関する現地調査を行った結果、調査対象者の80%以上がよりクリーンなエネルギーへの転換を望み、ほぼすべての回答者が確実な電力供給網へのアクセスを優先事項に挙げました。また、およそ90%がバイオエネルギーのために農業廃棄物の販売に前向きであることがわかりました。
そうした結果を踏まえ、研究者らは熱分解工程による廃棄物管理の新たなシステム「Bio TRIG」を開発・設計。問題解決の可能性を秘めているとして2024年2月19日、グラスゴー大学が発表を行いました。
BioTRIGは、「バイオエネルギー・トリジェネレーション(Bioenergy Tri-generation)」の略で、農村部で発生する廃棄物を利用し熱分解工程を経て3つのエネルギー資源――バイオオイル・合成ガス・バイオ炭――を生成する仕組みで、コミュニティレベルで利用されます。村人たちの暮らしに次のように役立つ可能性があるとしています。
バイオオイル:屋内空気汚染の削減(化石燃料などからクリーンなバイオオイルを使用した調理へと転換)
合成ガスとバイオオイル:電化の遅れを改善(BioTRIGの継続的な動力源および地元への電力供給)
バイオ炭:土壌の劣化と汚染の改善(農地に戻し、炭素固定および肥料として利用)
研究者らは、コンピューター・シミュレーションを使って、BioTRIGの環境への評価と経済的実現可能性の評価を行いました。BioTRIGによって、コミュニティから排出される温室効果ガスは、年間一人当たり350kgCO2-eq(二酸化炭素相当量)削減可能だとしています。
また、行われたすべてのシミュレーションにおいて、90%以上で費用便益比率(BCR)が1.35~1.75を示したとし、BioTRIGが経済的に実現可能であるとしています。
一方で、モデリングにより高い導入費用が課題になるとされますが、同研究では2つの新しい循環型ビジネスモデルを提案し、BioTRIG普及への移行がスムーズに行えるとしています。ひとつは、民間セクターによる初期投資です。彼らは投資により社会的利益を享受でき、雇用創出にもつながります。もうひとつは、地元住民に農業廃棄物を無料で提供してもらう代わりにバイオ炭の無償提供やバイオオイルの割引販売を行うというもので、こうしたビジネスモデルにより費用削減ができるとしています。
グラスゴー大学アダム・スミス・ビジネススクール教授で同論文の共著者であるJillian Gordon氏は、「気候・健康・農業への影響と経済的可能性を同じ論文内で詳細に説明することで、BioTRIGが政府・資金提供者・NGOの注目するプロジェクトとなり、インド農村部に住む5億人の人々にもたらす利益を評価してもらえることを期待します」と語っています。
同研究の論文は、学術雑誌Science of the Total Environmentに発表されています。
<参照情報>
グラスゴー大学|NEW STUDY SHOWS HOW PYROLYSIS TECH COULD IMPROVE LIFE IN RURAL INDIA
学術雑誌Science of the Total Environment
“Trigeneration based on the pyrolysis of rural waste in India: Environmental impact, economic feasibility and business model innovation”
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